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2013年3月16日土曜日

IPPNWドイツ支部が「WHOによる福島健康被害報告書」を論理的に批判


WHOのフクシマ原発事故健康リスク評価に対する批判的分析.


(注:PDF)
http://www.fukushima-disaster.de/fileadmin/user_upload/pdf/japanisch/WHO_Fukushima_Report2013_Criticism_jp.pdf

2013年2月28日、世界保健機関WHOはフクシマ原発事故の被曝による「健康リスク評価」に関する報告書を発表した。報告書は、「日本国内外の一般公衆では予測されるリスクは低く、通常のガン発症率を超えるような目立ったガン発症率の上昇は予想されない」 i と結論付けた。以下に挙げるIPPNW(各戦争防止国際医師会議)ドイツ支部のアレックス・ローゼン博士の分析は報告書に対する主な批判点を挙げ、なぜ報告書が実際の健康影響に関する中立な科学的評価ではなく、将来の決定と勧告に有効となる基盤としても見なすべきものではないのかを示している。一番重要な点は以下の通りである。

(報告書は間違った推定を基盤にしている)

今回の報告書はWHOが2012年5月に公表した予備的線量推定 ii をベースにしているが、この推定は以下のいくつかの理由から独立系の研究者から激しく批判された。 iii

• 放射性物質の総放出量(ソースターム)を過小評価した

• 避難前、避難中における20キロメートル内地域に居住していた公衆の被曝を無視した

• 内部被曝線量の計算に使用された食品試料の量が不十分で、試料の選択が偏っていた

• 報告書の作成責任のある原子力科学者に不透明な利害関係があった


健康リスクの計算はそれがベースにしている推定が正確でない限り、正確ではない。中立性が欠ける、試料選択に偏りがある、重要な要因が曲解、無視されているという理由からその有効性に疑問のあるデータに依存する評価は、科学界では健康に関して勧告する基盤としては認められない。


(報告書は福島県外の住民の健康リスクを無視している)

放射性物質が日本の多くの地域に放出され、汚染された食品が福島県外に出回っていたにも関わらず、福島県内の14の最も影響を受けたと見られる地域だけが健康リスク評価の対象として考慮された。それによって、日本のそれ以外の地域の住民に関する測定可能な健康影響が否認された。チェルノブイリの経験から、比較的被曝線量の少ないたくさんの住民においては、ガン発症の絶対数で被曝線量の高い少数の住民と同じ結果が出る可能性があることがわかっている。


(放射性物質の放出が続いていることが評価では考慮されていない)

WHOの報告書はフクシマの原発事故を単発の事故として取扱い、2011年3月の初期のメルトダウン後もセシウム137やヨウ素131のような放射性物質が漏れて、流出、放出され続けていることを考慮していない。報告書の執筆者は、放射性核種が土壌に入り込むことによって「遮蔽効果」があると推定し、チェルノブイリ事故後に見られたように、地下水や食品供給チェーンからの放射性セシウム137によって内部被曝量が増加し続けていることを考慮していない。


(報告書は胎児の放射線感受性が高くなっていることを無視している)

報告書の執筆者はこどもと比較すると胎児の放射線感受性が高いことをほとんど考慮せずに、放射線によって周産期死亡率や先天性異常が増加している可能性を除外した。胎児はヒトの中でも最も感受性の高い形態で、へその緒から胎児の体内に入るヨウ素131とセシウム137によって内部被曝する傾向がある。胎児と母乳で育ったこどもの高い放射線感受性を考慮せずに、放射線の影響を受けた公衆の中でも最も弱い胎児の特殊な健康リスクを無視しているので、WHOの報告書では現実の健康リスクを著しく過小評価した。WHOの報告書は先天性奇形と周産期死亡などの催奇形効果を無視している。


(最新の臨床所見を考慮しなかった.)

報告書によると、フクシマ原発事故の結果だとする「臨床条件が認められなかった」という。しかし報告書では、すでにフクシマのこどもたちに甲状腺ガンが3例見つかったこと、甲状腺にのう胞としこり(結節)が増えていることも、すでに報告されているようにフクシマ原発のメルトダウンによって乳児の死亡率が増加したことも述べられていない。因果関係を立証するのは難しく、これら現象の範囲と可能な原因を調査するためには更なる調査が必要なのは明らかだが、これらの現象が報告書でまったく無視されているのは、報告書の中立性に疑いを持たせる。


執筆者の中立性に疑いを持たなければならない

今回のWHO報告書は再び、利害関係のあるのが明らかな科学者によって多くの部分が作成された。

報告書は科学者同士の査読という通常の科学的なプロセスを経ておらず、放射線の健康影響を批判的に見る科学者が専門家パネルには招かれていなかった。生涯の多くを英国の原子力産業のために働いてきた科学者が乳児とこどもの放射線影響に関する専門知識を提供することに責任を持っていた。



(結論.)

フクシマ原発事故に関するWHOの「健康リスク評価」は、医師や将来の勧告を行う意思決定者が利用できるような科学的に中立で信頼できるデータを提供しない。福島と日本の人々に関する真の健康リスクは今後、原子力産業や原子力規制機関とのなれ合いや影響の疑いのない独立した科学研究者によって評価されなければならない。WHOは放射線に関する健康リスクを評価するに当たってはその独立性を取り戻し、特殊な産業界の利益ではなく、人々の健康の関心だけに専心することの正当性を再確認しなければならない



▼ 脚注 ▼

i  WHO.「予備的線量推定をベースとした2011年の東日本震災と津波後の原発事故による健康リスク評価」
“Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan earthquake and tsunami, based on a preliminary dose estimation”,
2013年2月28日.
www.who.int/ionizing_radiation/pub_meet/fukushima_report/en/index.html


ii  WHO.
「2011年の東日本震災と津波後の原発事故による予備的線量推定」
Preliminary dose estimation from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami
2012年5月23日
(注:PDF)
http://whqlibdoc.who.int/publications/2012/9789241503662_eng.pdf


iii  A.ローゼン(Rosen, A). 「WHOのフクシマ原発事故に関する報告書の分析」
Analysis of WHO report on Fukushima catastrophe
2012年8月3日.
(注:PDF)
www.fukushima-disaster.de/fileadmin/user_upload/pdf/english/ippnw_analysis_WHO-report_fukushima.pdf

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