☆白血病「両親被爆」に多く発症 広島大調査 (共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201206/CN2012060301000446.html
広島原爆で被爆した親を持つ「被爆2世」のうち、原爆投下後10年以内に生まれ、35歳までに白血病を発症したケースは、両親とも被爆した2世が少なくとも26人に上り、父親のみ被爆の6人、母親のみ被爆の17人に比べて、多いことが広島大の鎌田七男名誉教授(血液内科)らの研究で分かった。
(略)
2世を対象にした従来の調査では、日米共同運営の研究機関「放射線影響研究所」(広島市、長崎市)を中心に「親の被爆による遺伝的影響はみられない」との研究結果が数多く出ている
《備考》
☆福島原発事故、遺伝子突然変異は人類にとっての問題
(スイス国際放送。2011年10月6日)
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=31290712
「低線量被曝でもDNAは損傷を受け、突然変異を起こす。その結果が現れるのは、さまざまな要因が絡み約10世代も後のことだ。だが、それは人類にとって大きな問題になる」と、スイスの内科医マルティン・ヴァルター氏は話す。
突然変異した遺伝子を持つ者同士が遠い将来に偶然結婚して発現することは、しかし、どういったものなのかまったく分かっていない。ただそれは大局的に見ると、がんのわずかな増加より倫理的に問題だと危惧する。
(略)
swissinfo.ch:
最後に、放射線による遺伝子の突然変異、それも低線量被曝の遺伝子突然変異について説明してください。
ヴァルター:
チェルノブイリの事故から10年後の1996年にロシアのドゥブロバ(Dubrova)医師が英科学誌ネイチャー(1996Nature;380:683-6)に報告した例によると、チェルノブイリでセシウムなどに汚染された地域の人に遺伝子突然変異が多く見られた。
また、イスラエルのヴァインベルク(Weinberg )医師の調査(Proc Biol Sci 2001;268 (1471):1001-5)によれば、チェルノブイリの事故収束に働いた男性の2人の子どものうち、事故以前に生まれた子どもには遺伝子突然変異がまったくなかった。しかし、事故後イスラエルに移住して生まれた子どもにはある数の遺伝子突然変異が見られた。
放射能被曝によって父親の優先遺伝子が損傷されると子どもに病気が現れる。しかし、もし父親の劣性遺伝子が突然変異を起こした場合、子どもに受け継がれても、劣性遺伝子なので表面的には何の異常も起きない。これが、このイスラエルで生まれた子どもの場合だ。
しかし、もし遠い将来この子の子孫が偶然、同じ突然変異の劣性遺伝子を持った人と結婚し、劣性遺伝子同士が組み合わさるとさまざまな病気などが発現する可能性が考えられる。
ただ、何が発現するかは全く分かっていない上、こうしたことがチェルノブイリやフクシマで起こる可能性があるものの、さまざまな要因が絡むため約10世代は先の話だ。
ところで、ドゥブロバ医師などの方法で長崎と広島の被爆者の遺伝子を調べたところ、突然変異はほとんどなかった。原爆は瞬間的なインパクトを与えたが、長期の低線量被曝を起こさなかったということなのだろう。
従って、私には、低線量被曝が遠い将来の世代に与える遺伝的な影響が大きな問題だ。これは人類にとっての倫理的問題でもある。
☆小児がん科医として、フクシマの子どもたちの命を思いやる
(スイス国際放送。2011年6月15日)
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=30358134
swissinfo.ch:
ところで、染色体の損傷や切断は少量の放射線でも起こるのでしょうか?
リドルフィ:
公式には、今の段階では分からないと言われ、年間50ミリシーベルトから100ミリシーベルト被曝すると、がんになる可能性が高まるが、それ以下では分からないと言われてきた。
ところが、ドイツでは原発周辺に住む5歳以下の子どもを対象に、小児がん及び白血病発生率と原発との因果関係についての調査が国の依頼で行われた。2007年に出た結果によれば「原発に近ければ近いほど小児がん及び白血病発生率が高い」。それは即ち少量の放射線が染色体に影響を与えるということの証明だ。
5歳以下の子どもは大人より、2、3倍も放射線の被害を受けやすく、胎児はなおさらだ。それは成長のために細胞分裂が絶えず行われており、染色体が不安定な状態にあるからだ。
(略)
ただ、この調査以外には、長期に少量の放射線量を浴びるケースの研究はわずかしか存在しない。長期間で経費もかかる非常に困難な調査だからだ。しかし、少ない調査結果とはいえ、現在多くの医学者、科学者が放射線は少量でも危険だ、特に子どもの場合は特別に危険度が高まると言っている。
swissinfo.ch:
遺伝的な問題の質問です。イギリスにあるセラフィールド ( Sellafield ) の使用済核燃料の再処理工場に勤務する父親の子どもには白血病のリスクが高いという報告がありますが、それはなぜでしょう。
リドルフィ:
それは、父親の睾丸に放射線があたり、精子の染色体が異常になり、たとえ母親の卵子が正常でも生まれてくる子どもは、いわば全身の細胞の染色体に父親の染色体の異常を受け継ぐため、白血病になる可能性があるからだ。
また、この2世代目がたとえ白血病などを起こさなくても、全身の細胞ということは、その子の卵子や精子まで染色体異常を受け継ぐため、第3世代、第4世代まで染色体異常は受け継がれる。
さらに、現在小児医学では、多くの脳や神経系の病気が染色体異常によって起こることも分かってきている。
このため、今フクシマの原発事故現場で働いている人たちのことを考えると胸が締め付けられる思いだ。
swissinfo.ch:
では、例えば被爆によって子どもが白血病にかかっても、その子が完治して大人になった場合、その子孫は大丈夫なのでしょうか。
リドルフィ:
小児白血病が化学療法で完治した場合、白血病細胞はすべて死ぬため、その子が大人になり子孫を作っても、子孫が白血病になることはない。要するに異常染色体が受け継がれなければ大丈夫だ。
swissinfo.ch:
例えば福島の子どもが白血病にかかったとしても、現在白血病はほぼ8割が完治しますね。
リドルフィ:
確かに8割が進んだ化学療法などで完治する。しかし問題なのは完治に至るまでの長い苦しみの期間だ。白血病のタイプによって治療期間は異なり、短期で集中治療するか、もしくは、1週間に1回の治療を2年から2年半続けることになる。
また、治っても再発する恐れと戦わなくてはならない。さらに多くの母親が何もしてやれない無力感や、子どもの死と直面する苦しみに耐えなくてはならない。
ある母親は、3歳の息子が白血病だと分かると動揺し、治療を始める前にまず神父を訪ね「子どもの葬儀も大人のそれと同じか」と聞いた。同じだと分かったときようやく納得して「治療を始めてくれ」と言った。
家族の抱える苦悩は大きい。祖母や祖父など全員を巻き込む苦しみだ。30年間こうした子どもや家族と過ごしてきて、今、フクシマの子どもたちを思う。